ドイツで生まれたSAPが成功した考察が興味深い

グローバルで成功しているパッケージソフトウエアは米国製品がほとんどを占めている印象があります。MICROSOFTやORACLEがその代表例になると思います。

しかし、ERPパッケージで大きなシェアを持っているSAPはドイツの会社です。「SAPの成功:ドイツの制度環境からの一考察」という同志社大学客員教授の方が書かれた記事が面白かったです。(IPAのサイトで公開されています)

https://www.ipa.go.jp/files/000068596.pdf

SAPの歴史

SAPはIBMを退職した5人のプログラマーが1972年に設立しました。当時はコンピューターはまだ汎用機の時代であまりにも高価であったためにSAPでは自社用にコンピューターを購入することができずに、1980年までは開発はもっぱら顧客が持つコンピュータ上で行われました。

顧客の方も本番用と開発用といった形で複数のコンピューターを保有することは難しかった時代だと思いますので、どうやって本番運用と開発を両立していたのかは気になるところです。

最初は財務と購買を初期のシステムとして開発し、その後、ほかの機能を追加開発して現在の統合システムとなりました。

再利用可能なソフトウェア

ある顧客向けにシステムを提供しようとすると、そのシステムはその顧客の要望に応えるように作ってしまい、出来上がったシステムはとても他のお客さんには流用できないものが出来上がることが多々あります。しかし、SAPが立派なのは、最初からほかの顧客でも再利用可能とできるように標準化されたコードを製作したそうです。

この「標準化されたコード」というのは、全顧客共通で使えるようなロジックはパッケージ本体部分に残し、顧客ごとに異なりそうな仕様は枝葉に置いておき、外部パラメーターでどの機能を選択するか選べるようにするといった工夫のことを指しているのでしょう。

ある顧客向けに専用のシステムを作ったとき、そのプログラムの著作権は、その顧客のものになることが多いですが、SAPでは各社との契約の中で構築したコードを活用し標準化されたコードを拡張していったのだそうです。プログラムを他の会社にも活用することを宣言すると、どうしてもプログラムのコストは1/nになるはずと値引きの材料にされてしまうと思いますが、そのような要求もある中で個別の調整を進めていったのでしょう。

このような取り組みを行う中で、最初は汎用機向けのパッケージがシェアを上げて、次にUNIX向けに開発
した製品も主流の製品に育っていったということです。

企業間で共通化された手続き

日本においては各企業ごとに独自の手続きが数多くあって、なかなか標準化パッケージが育つ環境にありません。例えば、SAPを導入しても利用する企業の業務の仕方にあわせて、たくさんのカスタマイズが入ってしまった例をよく聞きます。そんな中で、ドイツはなぜ上手くいったのかが論文では解説されていました。

一つはドイツ型市場経済では、様々な基準や手続きが明文化されていることが多くて、各社の制度や業務フローが標準化されやすいのだそうです。給与制度一つをとっても、基本給、業績給について、企業を超えた産業別の労使交渉で決められていて産業や業種ごとに参考になる職務等級や報酬テーブルが存在するのだそうです。

日本においては各企業ごとに労使交渉が実施されていますし、また基本給の考え方、業績給の考え方、それ以外の各種手当の考え方は企業によりバラバラというのが実態ではないでしょうか。これでは給与システムのパッケージを日本で標準化することは、かなり厳しい状況なのではないかと思います。日本における給与パッケージがどうなっているのか調べてみると、株式会社Donutsのジョブカン、freeeの人事労務freee、富士通のGLOVIA iZなどの製品が並んでいました。

教育訓練制度の充実

二つ目に教育訓練制度が充実していて、しかも企業間の業務の共通性が高いため、従業員の技能や知識が平均的に高くて共通性が高いのだそうです。会社ごと、下手をすると部署ごとのローカルルールを覚えなくて良いのだとすると、確かに専門性を高めることが日本より比較的容易なのかもしれません。

日本における今後

以前は大量生産でコストダウンが一つの潮流でしたが、最近では情報処理技術の進化や3Dプリンターの発展等に伴い、個に最適な情報を得ることができたり、個にうまく合うような製品がカスタマイズされて提供されるようなものが増えてきました。

とすれば、国際競争力を高めるために、国全体で制度を共通化するよりも、各組織の単位で最適な制度を持っていたほうが、競争に勝ち抜きやすくなるとも考えられます。論文の中では日本の閉鎖的な風潮は今後の足かせになることを危惧した記載もありました。ただ、日本のITベンダーがSAPの後追いでグローバルな汎用パッケージを目指しても競争優位性が低すぎるようにも思います。むしろ、個のニーズをいかに迅速、安価に満たすことができるかを解決させるかを考えたほうが国際競争力を得られるような気もしました。

ソフトウェアの開発も徐々に自動化が進んでいます。個のニーズを満足させるためには、この自動化により大きなイノベーションにつながるのではないかと思います。

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